1月24日に開催された「バリアフリー・ナビプロジェクト シンポジウム」。未来のバリアフリーや歩行空間のあり方や自動走行ロボットの最新事例、識者によるパネルティスカッションと充実した内容をレポートします!
2023年1月24日に「バリアフリー・ナビプロジェクト シンポジウム 〜人とロボットがスマートに共創する未来〜」が東京都北区赤羽台の東洋大学INIADホールとYouTube Liveで開催されました。これは国土交通省の主催で開催された、未来のバリアフリー・歩行空間のあり方・自動走行ロボットの最新事例などを語る“未来の歩行空間の可能性”を紐解くシンポジウムです。
〇バリアフリー・ナビプロジェクト シンボジウム 〜人とロボットがスマートに共創する未来〜(前半)
開会にあたり、主催者代表の国土交通省技監 吉岡幹夫氏が登壇。
国土交通省 技監 吉岡幹夫氏による開会の挨拶。
「国土交通省ではこれまで高齢者や障害者など誰もがストレスなく自由に移動できるユニバーサル社会の構築に向けまして、東洋大学の坂村先生のご指導のもと歩行空間のバリアフリー情報などをオープン化する『バリアフリー・ナビプロジェクト』を推進してまいりました。
一方で近年の物流の省人化への対応や、コロナ禍における非接触の配送ニーズの高まりなどを、ロボットの自動走行で補完するという実証が日本各地で行なわれ、自動走行ロボットの社会実装に向けた取り組みが進んでおります。
こうしたことから、本シンポジウムは今後の自動走行ロボットの普及を見据えまして、副題にありますとおり“人とロボットがスマートに共創する未来”の歩行空間を議論する目的として、開催することにいたしました。
本シンポジウムを通じまして、より多くの方々が『バリアフリー・ナビプロジェクト』に興味を持っていただくという事と共に、誰もが快適に歩ける歩行空間の未来を考える機会となり、ひいてはユニバーサル社会の実現につながることを期待します」(吉岡氏)
車いすユーザーの自立支援と自動走行ロボットの共通点とは?
続いて、「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」の委員長である坂村 健氏が本シンポジウムの趣旨を説明しました。
「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」の委員長である坂村健氏。
「『ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会』というのはそのルーツを辿ると、20年くらい前から国土交通省が進めていた『自立移動支援プロジェクト』が源です。この『自立移動支援プロジェクト』というのは、誰もが思ったとおりの自由な移動ができる体制を国が整えようというプロジェクトです。
現在皆さんが移動する場合は、スマートフォンなどを通してインターネット上の地図などを見ていると思います。しかし、残念なことの坂の傾斜や段差があるかなど、完全な情報がそこに載っているとは言い難い状況です。
車いすに乗っている方が移動するときに、傾斜がどれくらいか? 段差があるのか? というのは非常に重要な問題です。そういうことがわからないと、なかなか好きな場所に自由に移動するのが難しくなるのです。ですので、どうやってそういった情報を地図に出していくのかを長年検討してまいりました。
実は車いすの方を誘導することと、ロボットが日本の国土の中を動き回るということは、わりと要求は似ております。例えば高精度な即位に基づく高精度な地図とか、自分がとこに居るのか? などの高精度な位置インフラという仕組みです。最近の委員会では誰かの何かの目的だけではく、あらゆる人たちの目的に沿う、ロボットの移動までカバーするようなユニバーサルデザインの原点に戻って、これをやろうという気運になっています。
今日は関係する方に集まっていただいて、障害者の要求をよくご存じの方とか、ロボットの専門家という方たちとの意見交換を通して、未来の我が国の道路はどうあるべきか? ということにも頭を巡らせていただければと思います」
「道路における車いすの方のニーズと自動走行ロボットのニーズは似ている点が多い」と語る坂村 健氏。
「バリアフリー・ナビプロジェクト」のこれまでの歩みと今後の課題
さらに、国土交通省 総合政策局総務課(併)政策統括官付 政策企画官 松田和香氏より、自動走行ロボットの実証実験の成果や、アイデアコンテスト等の取組についての発表が行なわれました。
松田氏は「バリアフリー・ナビプロジェクト」の施策概要について、以下の3つのポイントで説明しました。
・高齢者や障害者などを含め、誰もがストレスなく自由に活動できるユニバーサル社会を構築する。
・バリアフリー情報を始めとするさまざまなデータをオープンデータ化する。
・民間事業者等がそれらのデータを自由に利活用し、多用なサービスを提供できる環境づくりを推進。
国土交通省 総合政策局総務課(併)政策統括官付 政策企画官 松田和香氏。
続けて「バリアフリー・ナビプロジェクト」のこれまでの施策の歩みと取り組みを紹介。今後は自動走行ロボットの走行にもバリアフリー情報等は必要不可欠であり、本施策との親和性も高いのではないかというのが最近の動きとのことです。
・2004年には「ユビキタスコミュニケーター端末」を使い、神戸三ノ宮で実証実験。
・2014年6月に「ICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会」委員会設立。スマートフォンの広がりを受けオープンデータの時代へ。
・2015年7月よりオープンデータサイト開設。
・2018年3月に「歩行空間ネットワークデータ等整備仕様」のデータフォーマットを施策。
・2021年10月より「歩行空間ネットワークデータ整備ツール」の提供開始。
松田和香氏が「バリアフリー・ナビプロジェクト」のこれまでの施策の歩みや取り組みを紹介。
こういった流れのなか、これまではバリアフリー目的だけではデータの整備・更新がなかなか進まない状態でしたが、歩行空間ネットワークデータの新たなニーズとして自動走行ロボットを活用したビジネス展開が見込めるようになったと説明。さらなる技術の進展によるデータの整備・更新の効率化が可能となってきているとのことです。
また続けて、2022年11月16日に赤羽台で行なわれた、「歩行空間ネットワークデータを用いた自動走行ロボットの走行実証」についても紹介。4月からの自動走行ロボットの歩道走行の改正道路交通法施行に向け万全の体制で臨む姿勢を見せました。
【参考記事】
・「自動走行ロボットにもバリアフリー情報を。この秋「歩行空間ネットワークデータ」を活用した配送実験実施へ」https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2135201.html
・「自動走行ロボット「プレ実験」ソフトウェア開発担当者に話を聞いた!」https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2135365.html
・「車いすが通れる道は自動走行ロボットでも進めるのか?実証実験の課題を聞く」https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2224712.html
・「自動走行ロボットと共存する社会をどう捉えていくか。「歩行空間ネットワークデータ」を用いた実証実験でルート上のエレベーターと情報連携!」
https://www.barrierfreenavi.go.jp/closswalk/2257310.html
自動走行ロボットのこれからと人々が生きやすい歩行空間とは?
さらに「バリアフリー・ナビプロジェクト」の関連事例の紹介が、株式会社ティアフォー 事業本部 Vice President 岡崎慎一郎氏と、独立行政法人都市再生機構 本社 技術・コスト管理部 担当部長(新規施策)渡邊美樹氏によりありました。
ティアフォーの岡崎 慎一郎氏によれば、自動配送ロボットを広めるためには世界規模での仲間づくりが必要で、そのためにオープンソースで自動運転ソフト「Autoware」を製作。オープンソース化することでシステムの拡張性を広げ、世界中でいろいろなプロダクトで使われるようになっているとのこと。
株式会社ティアフォー 事業本部 Vice President 岡崎慎一郎氏。
昨年の実証実験で使用した自動配送ロボットはボディが川崎重工製。そこにティアフォーがセンサーや自動走行ソフトを搭載したもので、有人による遠隔監視・操作も可能とのこと。
赤羽台で行われた自動配送ロボットの実証実験では、2か所の信号機とエレベーター1台とAPI連携して800メートルを20~30分かけて自動走行で走破しました。
これまで自動配送ロボットは道路交通法上は、原付もしくは時速6キロ以下で走るみなし歩行者として扱われていましたが、2023年4月の改正道路交通法施行後には“遠隔操作型小型車”という新しいカテゴリーで扱われるようになり、一定の基準を満たせは都道府県公安委員会への届け出をすることで、より日本中を走りやすくなる期待があるとのことです。
自動配送ロボットは川崎重工製のボディに各種センサーなどを搭載。
続いて登壇したUR都市再生機構の渡邊美樹氏は、「多様な人々が生き生きと暮らし続けられる住まい・まち“を目指して」というタイトルで、生きやすい歩行空間のあり方とこれからの住環境を紹介しました。
独立行政法人都市再生機構 本社 技術・コスト管理部 担当部長(新規施策)渡邊美樹氏。
団地というのは住まいだけでなく、サービスを含めた地域の核となるべきだという考え方に基づき、AIやIoTを活用することでより多くのサービスや価値を想像できるのでは? と2030年を見据えてどんなことができるのかを紹介。
そういった未来の実験住宅として、団地内での配送ロボや清掃ロボットの実証実験の模様や、従来のUR住宅をリフォームし間仕切りがTPOにあわせて変化する可動家具、カメラやセンサーが複数台設置されたOpen Smart URの取り組みをしているとのことです。
坂村 健氏が監修したOpen Smart URには、可動家具や100基以上のカメラやセンサーを設置。
有識者によるパネルディスカッションで目指すべきユニバーサル社会のあり方を討論
シンポジウムの後半では有識者によるパネルディスカッションを開催。これまでのバリアフリー感や歩行空間の問題点、これからの目指すべきユニバーサル社会のあり方などについて、約1時間ほど熱い議論が交わされました。
〇バリアフリー・ナビプロジェクト シンボジウム 〜人とロボットがスマートに共創する未来〜(後半)
7名の有識者によるパネルディスカッション。
坂村 健氏がモデレーターを務め、「障害を持った方が働くときの移動することへの必要性、その際の障害とは?」といった話が繰り広げられました。その模様を紹介します。
竹中ナミ氏(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)は昔の障害者の移動にまつわる困難さを振り返りました。
「30年前の国鉄時代は駅にエレベーターなんかはまったくなくて、エレベーターをつけてくださいと言ったときに『階段を登れない方は来ていただかなくて結構です』と、信じられない回答をされました。今なら人権侵害などと言われるんでしょうが、その当時はそういった感覚が一般的な社会で、エレベーターをつけてほしいというのは無謀なお願いだったんです。『エレベーターを付けるのに1億円かかるんですよ!』などと平気で言われるような時代でした」
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長の竹中ナミ氏。
独立行政法人都市再生機構の渡邊美樹氏は、それを受けて「古い団地においてもエレベーター問題は重要でして、あとから取り付けている住棟もあるのですが、エレベーターはそれなりの大きさがあるので、スペースの問題や住みながらどう工事を行なうのか? という問題など、課題が多いなか少しずつでも進めていきたいな、ということでURは取り組んでいる最中です」と説明。
続いてロボットの遠隔監視によって障害者の働く場の広がる可能性について話されました。
「障害を持っていると職業選択の幅が狭まってしまうということに、自分自身の身体障害の他に社会の障害を感じる部分があります。そこから生きにくさを感じる部分も多くあったのですが、最近友人からよく聞くのが、コロナ禍でリモート化が進んだことによって、障害者であることに対してのハードルが下がってきたということです。リモート化による職業選択の広がりはこれからの社会をつくる上で必要なのではないかと感じています」とバリアフリー・ナビプロジェクト アンバサダーである瀬立モニカ氏。
バリアフリー・ナビプロジェクト アンバサダーの瀬立モニカ 氏はリモートでの参加。
福島晶子氏(国土交通省 総合政策局総務課(併)政策統括官付 企画専門官)は次のように語りました。
「私も子育て世代として、ICT技術が普及してテレワークができるようになったというのはものすごく画期的です。子供をはやく迎えに行ける、そのぶん働く時間を確保できるというのは子育て世代として助かっています。そういう意味で、子育てじゃなくても介護とかいろいろな事情があるなかで、障害者も含め多様な働き方が認められるような社会になってきたのは、非常に良いことだと思います」
国土交通省 総合政策局総務課(併)政策統括官付 企画専門官の福島晶子氏。
株式会社ティアフォーの岡崎慎一郎氏はこれからの自動走行ロボットの未来について「2年ほど前からロボットを公道で走らせはじめたんですが、道路ってこんなに段差があったんだと認識できました。ロボットの技術開発自体は我々ががんばっていくのですが、ロボットが増えてAI化が進むまでには、遠隔監視の面などで段差などの問題を知る車いすユーザーの皆さんの助けを借りられればと考えています」と話しました。
「私が車いすバスケを始めた20年前は、バスケをやりたくて体育館に行っても、一般の体育館や施設は車いすでの利用はお断りされて、障害者用の施設でしかバスケができませんでした」と語っていた網本麻里氏(バリアフリー・ナビプロジェクト アンバサダー)は、「オリンピックの選手村で自動運転のバスに乗らせてもらったんですが、自動運転していると気づかないくらいに正確に運行しているのを肌で感じました。そういった自動運転や見守りシステムなど、人とロボットが共生できるようなバリアフリーが進む世の中にしていきたいなと、微力ながら力になりたいなと思います」と期待を込めて語りました。
バリアフリー・ナビプロジェクト アンバサダーの網本麻里氏。
シンポジウムではそのほかにも、それぞれの立場や経験からの提言などが話され、非常に充実した内容となりました。
最後に、坂村氏が「今日はICTを活用した歩行者移動支援の普及促進検討委員会がやっていることの一環として、ロボットと人間の共生というプログラムを紹介しました。今後も継続して国土交通省並びにこの委員会でこの問題を追及していきます。ぜひまたこういうシンポジウムを開かせていただき、みなさんと交流していきたいとおっもております」と締めくくり、シンポジウムは終了しました。